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札幌簡易裁判所 昭和44年(ハ)1664号 判決

原告 株式会社図書販売

被告 孤山利昭 外一名

主文

被告らは連帯して原告に対し、金二万一、〇〇〇円およびこれに対する昭和四四年八月二〇日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

この判決の一項は、原告が被告らに対しそれぞれ金五、〇〇〇円の担保を供するときは、その被告に対し仮に執行することができる。

事実

原告代表者は「被告らは連帯して原告に対し、金二万一、〇〇〇円およびこれに対する昭和四四年八月二〇日から支払ずみまで一〇〇円につき日歩五銭の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの連帯負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因を次のように述べた。

「原告は図書の販売を業とする会社であるが、被告孤山に対し被告駿河を連帯保証人として昭和四四年三月一一日、日本現代文学全集を代金三〇、四〇〇円、その支払方法・同年三月二五日三、四〇〇円、同年四月から同年一二月まで毎月二五日限り三、〇〇〇円ずつ支払う、特約・右割賦金の支払を一回でも怠つたときは期限の利益を失い、遅延損害金を一〇〇円につき日歩五銭を支払う約旨にて売り渡した。ところが、被告孤山は昭和四四年五月分までの割賦金合計九、四〇〇円を支払つたが、その後の支払をしないので、原告は同被告に対し同年七月三〇日到達の内容証明郵便で同年六、七月分の割賦金を催告の日から二〇日以内に支払うこと、もし右支払をしないときは期限の利益を失う旨の催告並びに条件付期限喪失の意思表示をした。しかし被告らはこれが支払をしなかつたので、右催告期間の経過した昭和四四年八月二〇日右割賦金支払の期限の利益を失つた。

よつて原告は被告孤山および連帯保証人である被告駿河に対し連帯して代金残額二一、〇〇〇円およびこれに対する期限喪失の時である昭和四四年八月二〇日から支払ずみまで一〇〇円につき日歩五銭の割合による約定損害金の支払を求める。」

被告らは適式の呼出をうけながら本件口頭弁論期日に出頭しないし、答弁書その他の準備書面も提出しなかつた。

理由

原告主張の請求原因事実は被告において明らかに争わないから民事訴訟法一四〇条三項によりこれを自白したものとみなす。

右事実によれば、原告主張の原告と被告孤山間の売買契約はいわゆる指定商品「書籍」を目的物件とし、代金を二か月以上の期間にわたり三回以上に分割して支払うことを内容とするものであるから割賦販売法の適用がある場合である。

ところで、割賦販売法はその六条に、割賦販売契約が解除された場合における損害賠償額の予定又は違約金の額を制限する規定を置いている。これは割賦販売の本質が定型・大数契約性を有する一種の附合契約であることに鑑み、経済的弱者たる一般消費者を経済的強者たる割賦販売業者の権利濫用から保護するため、公序良俗ないし信義則違反の有無による契約条項の有効無効について個別的干渉の繁雑さを避けて、損害賠償額の予定又は違約金の額につき法規による基準を与えたものと解される。これを民法の規定に当てはめると、割賦販売契約に基づく債務の不履行の場合には民法四二〇条一項後段の損害賠償の予定額に対する裁判所の介入禁止規定が排除され、かつ右債務の不履行に「金銭を目的とする債務」の不履行について規定した民法四一九条と同質(但し同条一項但し書の利息制限法所定制限内の約定利率による緩和が認められない点ではより強化されている。)の制限が課せられたものというべきである。したがつて、割賦販売法六条は、文理上割賦販売契約の解除を前提とした規定であるにもかかわらず、契約を解除せず割賦販売未払代金を請求する場合すなわち期限の利益を喪失した賦払金の支払についても、その実質において何らの差異がないから、勿論解釈としてその適用があると解するを相当とする。

そうすると、前判示事実によれば、原告の本訴請求は、期限の利益を喪失した賦払金二一、〇〇〇円およびこれに対する期限の利益を喪失した日である昭和四四年八月二〇日から支払ずみまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金につき被告らに対して連帯してその支払を求める部分は正当であるが、右法定利率を超えて一〇〇円につき日歩五銭の割合による遅延損害金の支払を求める部分は割賦販売法六条に違反する無効の特約に基づく請求として理由がないものといわなければならない。

よつて、原告の被告らに対する本訴請求はいずれも右認定の限度において理由があるからこれを認容し、その余の請求を棄却し、訴訟費用の負担については、原告一部敗訴にかかる部分が附帯請求に関するものであることを考慮して民事訴訟法九二条但し書を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 樫田寅雄)

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